最終更新日: 2018/05/07   
 過日開催された淡交会常任理事会の休憩
時間に、両隣の大床副会長と森元事務局長
が次のような会話をしていた。「太るのは
簡単だけど、体重を減らすのは難しいね」
「そうだよね。少し運動しても、体重は全
然減らない」 私の臨床経験では体重をニ
キロ減らすだけで、糖尿病はもとより膝の
痛みや脂肪肝などは驚くほどの好結果が得
られる。高血圧症も良くなる。この努力を
せずに内臓脂肪を減らすとされるクスリに
頼り、鎮痛剤の処方を求める肥満患者さん
が実に多い。嘆かわしい医療の現場である
。 まずは自己管理(養生)をして、その
後に医療を求めるという態度が必要だと私
は考える。この、体重ニキロの減量に成功
した方々に、その具体的な努力の内容を質
問すると、間食(菓子や果物)を取らないよ
うに頑張り、そして電車の一駅は歩くよう
にした(約三〇分の歩行)というほぼ共通
した答が返ってくる。 ところで、なぜ太
るのは簡単で、減らすことは難しいのか。
それは人類の歴史の必然的な結果てある。

ヒトがこの地球上に誕生したのは二〇〇万
年前と言われるが、ヒトに進化する遙か以
前から、私たちの祖先は常に飢餓にさらさ
れ、現代のような飽食の時代など経験した
ことは一度も無かった。 従って、私たち
の体内の代謝システムは飢餓に備えて、摂
取したエネルギ─を備蓄する仕組みが高度
に発達している。他方、筋肉運動などのエ
ネルギ─効率は驚くほどに高い。つまり、
少しばかりの運動では体重が目に見えて減
ることはないのである。 運動で消費する
エネルギ─がどれほど少なくて済むかの最
も極端な事例は比叡山の千日回峯行であろ
う。 蕎麦粉の団子を一日に数個食べるだ
けで、比叡山を下り京都市街の社寺を巡り
比叡山に帰る という約三〇km の「行」
を毎日行なうのである。 それでは運動は
無意味かと言うと、決してその様なことは
ない。体重減少の成功例を集約すると、運
動量そのものよりも、むしろ「電車の駅一
駅を歩く」という、一種の「行」そのこと
に重大な意味があり、このような自律の決






意を実行できる人は、ストレスからの解放
と共に、間食の誘惑にも打ち勝てる克己心
を養えたと考えるのである。 ヒトの脳の
視床下部には「食欲中枢」と呼ばれる神経
細胞の集団がある。 空腹感や満腹感を 制
御しているが、これが精神的ストレスや常
習的な食物の過剰摂取のためにセットポイ
ントが攪乱され、「食べずにいられない」
状況に多くの人々が追い込まれている。 
これが現代社会の病理であるとも言える。
 ところで、日々の歩行を 実行すると、
「毎日飲みたくてたまらなかった砂糖をタ
ップリ入れたココアなどが欲しくなくなり
ました」と成功者は言う。つまり、運動を
「行」として習慣化できた方々は この 食
欲中枢の正常化へのリセッ卜に成功したと
考えられるのである。 こうしてみると、
運動の内容や時間が問題ではなく、それが
何であれ、自分が決めたタスクを習慣とし
て 実行出来るか否かが 自分でも気づかな
かった生活上の悪習慣を是正する上で、最
大の要訣であることに思い至るのである。





「 一 に 養 生 、 二 に 薬 」




【 淡交会 会報  会長挨拶より 】